研究

単一電子レベルで制御された光と物質の相互作用とその量子情報処理技術への応用
近年、半導体量子ドットに閉じ込めた電子やそのスピンを量子ビットとして活用することで、量子情報処理を行うことを目的とした研究開発が世界中で精力的に進められています。将来的に実用的な量子計算を行うためには、数百万個ほどの量子ビットが必要であると言われており、デバイスの拡張や集積化が喫緊の課題となっています。現状、可能性のあるアプローチの一つが、光と物質の相互作用を活用した拡張方法です。私たちの研究グループは、量子ドットに閉じ込めた電子とテラヘルツ帯域のメタマテリアル光共振器に閉じ込めた電磁波との間で実現する量子変換に関する基礎研究を行っています。これまでに量子ドットに閉じ込めた数個程度の電子とテラヘルツ光共振器との間で、光と物質の結合状態を形成することに成功しました。今後は、単一の電子と共振器の結合状態の制御や、スピン自由度と共振器の結合状態の実現へ向けた研究の展開を考えています。

関連文献:
K. Kuroyama, J. Kwoen, Y. Arakawa, K. Hirakawa, “Coherent Interaction of a Few-Electron Quantum Dot with a Terahertz Optical Resonator” Phys. Rev. Lett. 132, 066901 (2024).

極限的な光と物質の相互作用の物理の探求
光と物質が強く結合すると、「ポラリトン」と呼ばれる光と物質の両方の性質を持った結合量子状態を実現することができます。さらに、メタマテリアル光共振器などを使って、光や電磁波を微小な領域に閉じ込めて、電場強度を増大すると、光と物質の結合のエネルギーが、光の光子のエネルギーや物質の励起エネルギーに匹敵するほど大きくなります。このような結合状態は、超強結合状態と呼ばれ、物質中に様々な量子相転移現象を生じたり、全く新しい概念の物質制御技術を実現したりすることが期待されています。私たちの研究グループは、高品質の半導体基板を成長し、これをテラヘルツ帯域のメタマテリアル光共振器と組み合わせることで、半導体ナノ構造中の電子とテラヘルツ電磁波との間で超強結合状態を実現しました。今後は、超強結合状態のポラリトンで予想されている新奇量子相転移現象を開拓する実験的研究を展開していきます。

関連文献:
J. Huang, J. Kwoen, Y. Arakawa, K. Hirakawa, K. Kuroyama, “Chiral terahertz photocurrent in quantum point contact–split ring resonator coupled systems in the quantum Hall regime” Phys. Rev. B 111, L121407 (2025).
K. Kuroyama, J. Kwoen, Y. Arakawa, K. Hirakawa, “Electrical Detection of Ultrastrong Coherent Interaction between Terahertz Fields and Electrons Using Quantum Point Contacts” Nano Lett. 2023, 23, 24, 11402–11408 (2023).